#1762 サードシートを備えたFFジープのフラッグシップモデル、コマンダー。でもさ、あのさ、これさ……。


 ジープに限らず、SUVにもサードシートを求める方が多くいますが、ヘビーデューティなヨンクは3ドアがいちばんカッコイイと思っている者としては、昨今のこの流れに乗れずにいます。SUVたるゆとりを感じさせるジャンルに、シートを無理矢理に押し込めるパッケージングは、なんかね、違うな、と思うのですよ。まぁ、実際に、SUVでキャビンを広げようとも、重心高のあるモデルですから、サードシート付きパッケージングを整えて、取り回しまで含めた、満足感を得ることはヒジョーに難しいものがあり、いずれにしてもミニバンのような居住性には遠く及びません。で、振り返ってみると、かつて、オフロードも走れるモデルをベースとして、三菱のデリカ・スペースギアにおいてフラットフロアと不満の少ないサードシートまでを、具現化したことがありました。ただ、あまりにミニバンを意識してフラットフロアにこだわりすぎたため、フロア高は乗降に面倒を感じさせるレベルとなり、かといって全高へと逃げられず、つまりは、キャビン高を稼ぐことができず。結果として、このチャレンジングなパッケージングは、モノコックにしちゃえばできるよね、でも、オフロード走破性はスポイルね、という、イマドキな結論を導き出し、そのコンセプトは、現行型デリカD:5へと引き継がれて「は」います。


 で、振り返ると、ジープは、少し前に2世代目グランドチェロキーをベースとしてサードシートをプラスしたコマンダーをラインナップしていましたが、その後、経営難により次期型は消滅。現状では、ステランティスグループ傘下となってジープたるフルラインを取り揃え、最近では、サードシート付きモデルを追加。このサードシート付きジープが出てくることは、マーケットを眺めていれば予測できたもので、ようやく、現行型グランドチェロキー(ワゴニアも同様)にサードシートを備えたロングホイールベースバージョンを追加し、矢継ぎ早に、昨年、FFモデルにも同様にサードシート付きモデルをラインナップしました。これが、このコマンダーですな。まぁ、ジープに限らず、実は、このFFのCDセグメントモデルにサードシートは必須パッケージングとなっており、ジープも世の流れに乗ったと考えると妥当なところ。ただ、なぜか、このモデル、本国だけではなく、豪州・欧州でラインナップしないという不可思議がありまして……、……、……、あ、なるほどね、なるほど、そうなんですね、そうなんですよ。いずれにしても、その名をコマンダーとしまして、そんなところにもなんか違うんだよなぁ、を感じつつ、ちゃんと試乗してみないとね、ということで、借り出しました。


 この新しいコマンダー、日本のジープのポジションとしてはチェロキーを埋めるべく投入されたモデルと、捉えると、分かりやすいかと思います。もしくは、少々乱暴ですが、チェロキーのサードシート付きモデル、とか。ちなみに、本国での販売がまだ続いているチェロキーは、そもそも、アッパーミドルクラスたるクオリティを与えられて登場し、好き嫌いがはっきりと別れるフェイスデザインを持ちながら、クオリティの高さ、サイズ感、価格帯もあって、北米では人気モデルに。ただ、気が付けば、ほかジープのフルモデルチェンジによって、クラス下のコンパスに追い上げられ、そして、兄貴分のグランドチェロキーに引き離され、微妙なポジションに追い込まれてしまい、とうとう日本ではラインナップから消え去ってしまいました。ということで、そのポジションを埋めるべく、このコマンダーはサードシートを加えたFFジープとして投入する意味合いはあったと思います。ですから、その車名をチェロキーにしても良かったんじゃないかとさえ思えたりもします。ま、チェロキーは革新的でなきゃダメだから、このコマンダーとはちょっと違うか……。


 で、コマンダー。FFモデルベースのサードシートだけではなく、日本でのジープ初となるディーゼルエンジンを搭載したこともアドバンテージとしています。その乗り味は、グランドチェロキーに似たデザインテイストからアッパーラグジュアリィサルーン(ヘンな日本語だ)を想像させますが、先に述べたように、チェロキーポジションに止めており、さまざまな面でグランドチェロキーとは明らかにクラスが異なることを感じさせます。たとえば、ディーゼルエンジンは、その燃焼音に耳障りな音質が強くありますし、いわゆる低回転域のトルクもそれほど強く(太く)なく、かといって、不可はないという、なんともかんとも評価しにくいユニット。ボディ剛性は、これだけロングにしているから(開口部が大きくなった分)には、肝心なところを相当に固めたかと思いきや、駐車場へと入るために歩道へと乗り上げるだけでで、きしみます。おっと……。走りについては、直進安定性もすこぶる高いわけでもないし、ステアリングフィールもオンセンターに緩さがあって、クイックにしろとはいわんですが、もう少し質感を与えるべきでは? と思えるところが見られます。一方で、ワインディングでは普通に駆け抜けていきますし、バネ下をしっかりと抑え込んでフラットライド感を作り上げていますし、遮音性がすこぶる高いなど、チェロキー譲りの良さをあちこちに引き継いでいます。ということで、個人的には、ベースの設計が古いというよりは、コストを掛けなかった、意図的な戦略を感じ取りました。そう、ありなんです、こういう商品も。


 オフロード走行は、ほかのSUVよりは走れるというチェロキーレベルを与えられています。たとえば、クロカン走行用にと設定されたローギアとロックモードは、オフロードで求められるゆるゆる、かつ、限界はあるもののがっつりとしたトラクションを提供してくれる味付け。とはいっても、そんなシーンへ到達する前にフロアをずりずりと擦り、バンパーをゴスッっとヒットさせなければならず、走破できますというよりは、通過できます、といった印象に留まっているのもまた事実。表現は厳しくなりますが、リジッドサス全盛だった頃のジープレベルには届いていません(ほかSUVはもっと届いていません)。一方、期待のサードシートはどうなのかといえば、ご想像どおりのエマージェンシィテイストであり、シートバックサイズに大人が座ることを意識したデザインを与えたことは評価できますが、CDセグメントのSUVに共通するエマージェンシィ的という評価は変わりません。言い換えると、このクラスとしては標準的なんですけどね。総じて言えることは、個性が乏しい、ジープらしさが強く感じられないってところでしょうか。それが、新型コマンダーに対する印象です。
 そうそう、燃費は148.1kmを走って(そのうち50kmは首都高+中央道)、11.3km/L。期待していたほどの数値に届いていませんでした。

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