#1759 何故に縦置きな直6ユニットを新開発? と思ったけど、そこにマツダの理想たる走りが感じられた、マツダ・CX-60。
なぜに、今、直6ユニットなのか。衝突安全の面で不利とされて一時はV型に置き換えられるかと思われたものの、最近では、メルセデス・ベンツでも直6を復活。ま、不利よりも有利な条件が増え、不利だったことがらが技術によってクリアになったから、という理由は見えてきますが、なぜに、マツダが直6を、という疑問が湧きます。EV化が急がれる、いや、加速度的にシフトしはじめた昨今に、そもそも内燃機関を新開発? ま、簡潔に言い切ってしまえば、フルEVに向けて、もう少し時間がかかると見込んでのことで、過渡期にはPHEVを挟む、とのロードマップからでしょう。ただ、昨今の中国マーケットの急激なEVシフトや、北米のEVモデルへの購入補助金を眺めていると、おい、マツダさん、だ、大丈夫か? と、一方で、思ってしまいます。
さて、そこはさておいてですね、このCX-60という商品には、もうひとつの、えっ? がありました。それが、いま、マツダがエンジン縦置きプラットフォームを新開発? というものでした。その操縦性よりも居住性やらが強く求められる昨今のマーケットにおいては、縦置きレイアウトで居住性を確保するためには、そこそこのサイズが必要であり、つまりはDセグメント以上が基本となります。分かりやすくSUVを引き合いに出すと、メルセデス・ベンツGLC以上であり、BMWX3以上であり、サイズが大きいだけではなく、そこにはプレミアムなブランドばかりという共通項があります。そうなんですね、マツダは、大型なだけではなくアッパークラスへの新たなチャレンジ(これまではFFベースだった)もあっての投入だったことが見えてきます。個人的には、ますます、だ、だ、大丈夫か? と思ってしまうのですが、やっちゃえなんたらを堂々と謳っているブランドとは違って、マツダのスタンスには、いい意味でのチャレンジを感じておりまして、応援したくなりますな。
えっと、肝心な乗り味はですね、マツダのFRって、やっぱりいいよね、そこに排気量によるゆとりを特徴とするディーゼルって最高だよね、を感じさせてくるもの。テストドライブへと連れ出したのは、ディーゼル・4WDであり、シーンに応じてフロントタイヤへの駆動を行っていますが、とにかくハンドリングにおいては素直。操舵を楽しませてくれる対話性たるフィーリングと、コーナリングにおける4輪をどっぷりと路面へと押し付けた安定性とを、すこぶるバランスさせていました。まぁ、言い換えると、ある程度の速度域までならば、ステアリング操作だけでコーナーを駆け抜けていってしまうほどであり、少々、狙いすぎた感じもありましたが、いずれにしても、運転が上手かつ、楽しませてくれるという演出としては、いい感じに仕上がっていたと思います。ただ、昨今のマツダのモデル同様にですね、デザイン(この場合はホイールサイズ)を優先した結果、バネ下が重たくてですね、日常域において乗り心地に固さが現れてしまう。それは、サスペンションのストローク量でカバーしきれない固さであり、そういうシーンに気づいてしまうと、続いてボディ剛性の不足も目に付くようにあり、そして、ライバルとなるGLCやX3のハイレベルな作り込みと、どこかで比較してしまうものです。とはいうものの、販売価格は、イギリスではX3がガソリンモデルで4万7200ポンド〜なのに対して、CX-60はPHEVなのに4万4200ポンド〜、ユニット違いを考えると、CX-60にリーズナブル感があり、それならば仕方ないよね、と、納得せざるをえないところもあります。
もちろん、感心したのは、デザインにもあります。まずはFRであることを堂々とアピールするサイドビューは、日本で目にする多くのモデルとは異なること、つまりダイナミックなプロポーションであることを感じさせますし、そのディティールがすこぶるいい。それらは、どこかのブランドのような、奇をてらったテイストを採用するものの、それがかっこいいんだか、かっこわるいんだか判断できないような造形とは異なっており、つまり、ちゃんとデザインされています。ちなみにボディカラーにおいては、以前から語っていますが、マツダは赤の用い方よりも、そこに組み合わせるクロの使い方がすごくいい。だから、どのボディカラーでもすごく印象がいい。と、あれこれとべた褒めですが、それはインテリアも同様。シートサイズはアッパークラス感を伝えてくる仕上がりだし、何よりも、シートポジションが最高。フットレストにすっと左足をおいて、腰を落ち着けて、腕をさっと伸ばすとそこにステアリングホイールがある、という、絶妙なポジションを作り上げており、もう、最高。ただ、ひとつ、おや? と思ったのは、フロントシート用のカップホルダーが、縦置き2連となっていたこと。北米マーケットでは、センターコンソールにカップホルダーを横並びにできるスペースがあるかどうかが、アッパークラスモデルの価値のひとつであるはず、なので、これはどうしたものか、趣向が変わったのか、さてはてを覚えました。
いずれにしてもですね、途中でも触れましたが、このモデルの魅力は価格とのバランスにあります。国内ではガソリンモデルであれば300万円を切るプライスを実現しており、駆動方式の差から居住性という違いはあれど、国内FFベースモデルがライバルになりうる価格帯までをカバーしています。ま、そういう意味では、実のところ、CX-5までライバルになってしまっているわけですが……。ちなみに、ボディサイズが大きい、大きい言われていますが、振り返ってみると、自分が所有していたジープ・グランドチェロキー(2世代目)とほぼ同サイズで、グラチェロのほうが全長はむしろ短かったほど。ただ、その取り回しは、インパネデザインゆえに左前タイヤ付近に見づらさを「感じる」ものの、全体としてはCX-60には扱いやすさを感じました。
そうそう、昨今の広島マツダの件について。その後の対応を含めて、コメントしようがないほどにがく然としました。こういったクルマを作り上げられるメーカーである一方で、お客さんにいちばん違いところにあるディーラーでは、しょせん、そういう「つもり」が残っていたようで、まさにがく然。マツダの課題は、メーカーとディーラーとの温度差が大きく、そして根強く残っていることにあると、あらためて感じたのでした。