#1732 軽自動車にEVってすごくありだよね、を感じさせた、日産・サクラ、三菱・eKクロスEV。


 何か書いていないなと思ったら、日産と三菱からデビューした軽乗用車EVのことについてでした。前回の東京モーターショーにて、日産がその存在を予告していましたので、あれから3年近くが経過してようやくかといった感がありますが、同時に、え、専用プラットフォームではなかったことに驚きを覚えました。ま、深く考えてみたら、現在、パワーユニットは、内燃機関から完全モーターへの移行期ですし、軽自動車枠がこの先どうなるかも分かりませんから、当たり前といえば、当たり前のことでしたけども。
 というわけで、日産からは「サクラ」、三菱からは「eKクロスEV」というネーミングでデビューした両モデルですが、デザインや装備の組み合わせ方に違いはあれど、プラットフォームを共用していることはご存知のとおり。ってか、この話をすると、この事実を意外にご存知でない方も多いようで。えっと、両社の合弁会社であるNMKVが手掛けたモデルとなっていまして、モーターやバッテリーといったパワーユニット関連はもちろんのこと、シャシーまで共用しており、サスペンション形式が同じであるだけではなく、使っているパーツも同じ。ま、外装デザインや装備差によって、車両重量が下グレードでは10kgという差になって現れていますが。

 ということで、ここでは両モデルをまとめて評価します。特に感心したことは3つありました。ひとつ目は、エアコンをオンにしようと、少々ラフなドライビングを行おうと、つまり、EVにとって意地悪なことをしようとも、バッテリー残量表示に「突然」の落ち込みが見られないこと。これは公道走行でのレベルであり、もっともっと意地悪をすれば、知りませんよ、知りませんけど、日常使いでは不満を感じるレベルではなく、そういった唐突感がないところまで、しっかりと設計していることに、イマドキを感じました。メーカーとしては、高速走行をした場合、エアコンをオンにした場合、さらにはバッテリーが劣化した状況などを、かなり想定して、180kmという航続可能距離を設定したとのこと。そうなんですね、あの180kmという距離には、かなりのゆとりが与えられた数値となっていまして、目指せ180kmなんて走り方も可能であり、そこにおもしろさがあるかな、とも感じました。
 ふたつ目は、軽乗用車とEVの相性の良さなんですが、それを語る前に、まずもって、このボディに対して、このパワーユニットは完全にオーバースペックであることをお伝えせねばなりません。ちなみにモーターはノート4WDのリアモーター(MM48型)を「流用」していますが、その出力はすでにノート搭載の時点で50kWを発生させていましたので、これを軽自動車のパワー自主規制枠の47kWと……、としただけではなかった。そのノート搭載時で100Nmを発生させていた最大トルクをなんと195Nmへと強化。はっきり言って、そのままでも良かったわけですよ、ま、もちろん特性は変える必要はあったわけですが、現在の軽乗用車ガソリンターボモデルでも最大トルクは100Nmそこそこですから。つまりですね、軽乗用車なのにとんでもないトルクをプラスしていました。

 ではフィーリングはどうかといえば、発進時からこのボディに対して強大ともいえるトルクによりゆとりを作り上げている上に、アクセルペダルだけで加減速コントロールができるワンペダルモーション機能によって、操縦のしやすさ、扱いやすさを上手く表現していまして、もはや脱帽といった感がありました。たとえば、坂の頂点にある交差点のような、横からクルマが来るかもしれないし、まったく見えていないのだけど前にクルマがいるやもしれないという、まさに慎重を期すようなシーンで、ブレーキとアクセルとのペダルの踏み変えを必要としない上に、じんわり進めることができるという、扱いやすさを手に入れています。いうまでもなく軽乗用車というコンパクトサイズも相乗効果をもたらしていまして、本当の扱いやすさを感じるし、安心感にも繋がっていまして、EVでなければできない、コンパクトカーたる理想のスタイルをそこに感じました。そう、カタログでは表現しきれないところですな。
 あれ、語り出しはパワーユニットはオーバースペックって言ってたじゃん、と思われるかもしれませんが、実はこのオーバースペック加減がですね、物足りなさばかり指摘される軽乗用車に対してのイメージを大きく変えてくれており、こうして、意図的に仕立てたなという目論みまで見えてくると、これがいいと思えてきます。当初はデチューン版があってもいいのではないか? と思い、開発陣にその言葉をぶつけてみましたが、結局のところ、2仕様を作ることになるし、コスト的に大きく下げられるかというとそれもなかなか難しく、との回答をいただき、さらに納得。すべてのトルクをいきなり使い切らずともいいわけですから、なおさらに、お買い得感を覚えます。安くはないけども。
 
 さて、三つ目。EVパワーユニットを搭載によって車両重量はガソリンモデル(日産デイズ)では約200kgも増しています。んが、実は、この「重たさ」が、乗り味、特に乗り心地においてすこぶるプラスに働いています。シャシーの剛性感を保ったままに、サスペンションの動きをしなやかに感じ取れるという、なんとも質感の高い乗り心地。コーナリングにおいては、しっかりとロールさせるし、そのロール速度も穏やかであり、減衰がよく効いたものとなっていまして、コーナーリングに不安がなく、つまり、ドライバー以外の乗員にとっては安心感がある。ただ、これ、聞いてみると、シャシー、ボディのセッティングは、EVモデル重量増に合わせただけであり、特別な仕立てをターゲットとしてはいなかったとのこと。それにしてはすこぶるバランスがよくないか? と思ったわけですが、なるほどね、そもそも、そこまで見据えてのプラットフォーム開発だったんだ、ということまで見えてきて、妙に納得。
 ウィークポイント? それがですね、ないんですよ、ないの。もちろん、ここまでの評価は、国や地方自治体からのお手盛り補助金、さらにはエコカー減税施策をもらっての支出に対してであり、この先、この幅が小さくなった時、また、ライバルが登場した後は、両モデルに対する印象はまた変わってくるはずです。あ、ウイークポイントといえば、あるか。高性能ナビ不要という世代、層に対してのアピールが少ないこと。言い換えると、ディスプレイオーディオで十分、もしくはそこに周囲を映し出してくれるカメラがあれば十二分、を優先的に考えている人たちにとっては、予定外の出費を強いられてしまうことですな。もちろん、先を見据えて開発中とは思いますが、そのために上級グレードを購入しなければならない、もしくは40万円近いオプション代金が必要になるというのは、ちょっとね。ま、新しい機能がそこには含まれていますからという言葉で覆ってしまえば、簡単ではありますけど。

 ということで、原材料が大きく値上がっている今が買いなのか、それともディスプレイオーディオリーズナブルキットが出るまで待つのか、迷うところですが……、いずれにしても、補助金と減税施策が小さくなったら、買いの要素は少なくなっていきます。まぁ、今が買いでしょうかね。

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