#1724 すこぶる考えられていた展示手法に圧倒された、トヨタ博物館の話。


 トヨタ博物館へと出掛けてきました。先の大型連休から今年の7月18日(月)まで開催されている企画展「Here’s a Small World! 小さなクルマの、大きな言い分」の取材です。その内容は、この企画展のタイトルに集約されていますが、と言いますかね、タイトルとして秀逸でして、小さなと大きなの字面から途中に読点を入れているところまで、これ以外に考えられないと言わんばかり。これ、すごいですね、ほんとすごい。

 と、まぁ、すでに現地に赴く前から、すでに感心していたわけですが、これが、実際に足を運んだら、すばらしかった。この手の企画って、ヒストリーに沿って紹介するのが定番ではありますが、この企画展では、テーマを「光る性能」、「独創的なデザイン」、「操る楽しさ」の3つに分けて展示。それぞれのテーマ性を明確にしたテキストはもちろんですが、たとえば、「操る楽しさ」ゾーンでは、ヨー慣性モーメントとは云々なんて数式まで堂々と「描き」、広く理解してもらえるかどうかはさておき、イメージとして、つまりはそこにビジュアル的な要素を与えてしまうという手法を用いていまして、圧倒されました。言い換えますとね、アート系含めて、展覧会、博物館へ足を運んだ時にたまに出会う「やられた感」であり、正直、自動車メーカーの博物館への期待とは異なる驚かしに、企画者の意図としてクルマを文化と捉えている、ということが、ダイレクトに伝わってくるものでもありました。
 ということで、当初は、その企画的について書こうと思ったのですが、6月上旬には誌面で展開されますので、ここでは、そのほかのトヨタ博物館で受けた衝撃の数々を記していきましょうかね。ここトヨタ博物館は、大きく、クルマ館、文化館と名付けられた2つの館に分けられていますが、まぁ、その仕立てたるや、先に触れた企画展の練り込まれ方そのまんまが表現されておりまして、感心しきり。クルマ館のメイン展示では、もちろん歴代のクルマをタイムラインで並べているものの、そこに欧州、国産、北米という異なる3つの流れを車両配置を用いて表現していたり、その中にスポーツカーといったテーマが設けられており、もう、見飽きません。

 そして、そのクルマ館に、今年の4月にオープンした「クルマづくり日本史」がこれまた素晴らしかった。いわゆる、日本におけるクルマ産業はいかにして生まれたかをテーマとした展示なのですが、その表現手法がですね、イヤミになっていないデジタル手法、時に、壁一面に描かれたつまりアナログ的な手法を用いた系譜や数値をビジュアル化した表現も加えて、斬新と先進を感じさせつつ効果的なその展示方法にうっとり。もちろん、内容も。スペースとしてはこじんまりとしているんですが、ひとつひとつの展示がおだやかで、なめらかで、惹きつける何かがあって、みなさん、ここから立ち去ろうとしません(人がいなくなるのを待って撮影しようとしていたので、その分、苦労はしたのですが)。

 文化館の中にあるクルマ文化資料室では、移動は文化をテーマとして掲げ(もう、このスタンスで打ちのめされてしまった)、当時のポスターやカタログ、いわゆるおもちゃ、カーマスコットに至るまで展示。こういった館内では広い面を平面として使うと遠くが見渡せずに見えなくなるというジレンマに陥りますが、ここでは、ま、定番ともいえる、ステアケースを用いたゾーンニング分けをすることで、入った途端に展示数の多さを伝えてきます。一段高いところに何かあると、上ってみたくなりますしね。そしてですね、この手の展示(自動車博物館以外ね)って、まずはヒストリーを学んでから次はこっちへ……という、主催者の想いが込められた「順路」があったりするもの(もちろん企画によっては有効な手段)ですが、それがない。ですから、必要とあらば後戻りできますし、途中からアクセスしてもOKといわんばかりのレイアウトとなっています。いやー、感心、感心。いうまでもなく、展示されている数々の品は、当時のものそのものですから、この空間の湿度温度管理は徹底され、痛みを嫌って展示物も定期的に入れ換えが行われているといいます。

 さて、その中でも、個人的に感心したのは、やはりポスターやカタログといった、アートと呼べる作品群。右の写真は初代セリカのポスターですが、クルマという商品を紹介するポスターなのに、その自由というか、フリーダム感、あ、同じか、なんていうんでしょうかね、それまでの日本にはなかった新しい価値をデザインしています。それは、まさに、このクルマを手にすると、こんな世界が待っていますよ、といわんばかりの内容。しかも、この魚眼レンズを使った写真なんて……、もはや、絶句。いやー、このセンス、クリエイティブさは、もはや、今の時代で見失ってしまったそのものであり、制作に携われた人々に羨ましさすら覚えました。ちなみに、キャッチなしかーと思いきや、ポスターの右端センターに「恋はセリカで」と、あります。

 クリエイティブという意味では、カタログにも感心し、展示されていた中ではこの2点に改めて感激しました。1枚は、初代ステップワゴンのものですが、いわゆる装備、機能性を売りとしたミニバンなのに、見開きページで、リード的な文章をセンター揃えで整えて、クレパスを用いたキャッチを置きつつも、多くを地色を敷いた空間で校正。そこに並ぶ、ステップワゴンは印象的な色合いの3カラー、しかも、意図的にベタ光で撮影して、それをなんと切り抜いておいてしまうという大胆ぶり。後付けの影も含めて、これ、そもそもの制作コンセプトがしっかりとあって、撮影前にレイアウトがあってという、理想とされる制作過程が見えてきます。こうしたクリエイティブは、やはり、そこに余裕があったからこそ、といった感を覚えます。そう、金銭的、時間的、そして製作者とクライアントの心にも。ゆとりとも言い換えられましょうかね。

 カタログもう1作は、BG型ファミリアのGT-Ae。個人的にこのモデルそのものに対してしびれちゃう……というのはさておきですね、こちらもこの見開きページのデザインの美しさったら、もう、すばらしいのひと言。このままポスターにして、壁に飾っておきたくなるほどの魅力があります。主役たる車両の写真はもちろんなのですが、ここで評価したいのは、この長めのリードの箱組みスタイルでしょうね。こういう字面まで用いたデザインって、昨今、ほんと見なくなりました。
 と、まだまだ言いたいことはあれこれとありますが、このセレクト含めて、もう圧巻でした。なんか、博物館紹介というより、作品紹介になってきましたな。ちなみに、ここ文化館には、レストラン・カフェ、ショップ、さらには図書室が付属しており、この館だけでも1日をゆったりと過ごすことができます。というわけで、突然にまとめますが、一度、足を運ぶことをお勧めします。個人的には、もし近所にあったら年間パスポート買って通っていたと思われます。
 そうそう、裏話をひとつ。当日の撮影は自らが行いましたが、それほど暗くない館内にも関わらず所有しているミラーレスカメラでは三脚がないと手ぶれだらけ。もちろん、そのミラーレスの表現力を補う技巧力が自らにないこともあったわけですが(三脚持って行ってなかったし)、サブ機としてもっていったiPhone13miniで撮影した写真を誌面で展開しています。それにしても、これが使えるのなんのって……、といいますか、取材にも使うんだったら、光学な望遠レンズのあるproにしておけばよかった、とも、感じましたけども。

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