#1719 ルノーらしいデザイン、コンセプトなれど、かつてとは違う何かを感じさせた、ルノー・アルカナ。
年明けにルノーからデビューしたアルカナの広報試乗会に出掛けてきたので、その時に感じたあれこれを書き連ねましょうかね。端的にいいますと、個人的な好みをベースとしたルノーへの期待感と、この世の中において「売れる」商品という評価との、乖離を強烈に感じましてこれを称して「複雑な気持ち」ともまとめたりもしましたが。
商品としては、フォルム、サイズ感、価格、装備含めたお買い得度、輸入車としては珍しいフルハイブリッドユニット搭載など、ユニークポイントの多いモデルです。まず、写真を見て、それが伝わってくるもので、なんといってもルノー流の端麗なテイストは、クーペでももちろん存在。というか、クーペ的な作り込みが上手いですな、ルノーは。ちなみに、クーペフォルムが美しいなぁと感じているのは、あと、マツダもです、はい。このSUVをクーペに仕立てるテイストは、各ブランドから目新しさとしてあれやこれやと登場していますが、スクエアなクロカンに機能性たるバランスを感じている者としては、この手法に対して亜流を感じていますし、ブランドによっては破綻を感じさせるモデルもあるとまで、評しています。とはいっても、そのパッケージングは4ドアとしつつ、リアゲートのヒンジをかなり前に位置させて、大きく開閉させていますので、ま、雰囲気としては、いわゆる欧州車で流行った5ドアハッチバックスタイルあり、リアシートの居住性を確保しつつ、ラゲッジルームでは奥行きがある! と思わせる演出も相まって、不足を感じさせなかったりもするのですが。
とは言うものの、アルカナのデザインは、テイストだけではなく、そういった機能性を作り込んだ造形となっており、そのバランスも実に美しい、と感じさせます。ま、そう考えると、400万円少しであのデザインが手に入ることに「リーズナブル」感をすら覚えますかね。で、個人的に感心したのはリアシートの作り込み。なんだかんだいってもクーペスタイルゆえに、スポイルされているのでは? と思っていたのですが、さすがはルノーと感心させられた作り込み。ま、欧州モデルの妙でもあるんですが、すっと腰が落ち着き、自然なポジションを取ることができる心地よさが作り込まれており、フロントではなく意外にもリアに座りたくなる魅力を感じたほど。と、なるとですね、すべてガラスといわんばかりの大型グラスルーフが欲しくなりますが、と調べてみると、本国にはあるものの、国内仕様では非装着。それこそ、ルノーらしさであり、Appleにも似た、コンセプトごり押しスタンスで攻めても良かったのでは? と感じましたが、日本市場を意識してのことでしょうな。日本におけるマーケティングでは、ガラスルーフ系は求められないどころか、むしろ不要とされる装備となっているようですから、これが正しいスタイルなのでしょうな。
で、期待と異なるところを感じ取ってしまうと、続いて、ハイブリッドユニットに対して、この流麗なデザインとは見合わない、ガソリンエンジンからのサウンドに耳障りを感じました。分かりやすく表現すると、聞かせる音として作り込んでおらず、どちらかといえば、それはノイジーさを消し去ろうとするところに注視した作り込み。さらには、ノイズ発生源(エンジン)からは同時に何かが共振しているかのような振動をステアリングとペダルへと伝えてきていまして、先に感じた違和感をさらに強調してしまっています。簡潔にいいますと、期待外れだったところ。ただ、まぁ、こういった仕立て不足は、実はこのモデルがBセグプラットフォームを用いているからでして、そこには軽量にこだわるとか、コストを掛けられなかったという、Bセグならではの悩みがあってのこと。ちなみに、この手法は、BセグなのにCセグのふりをして大成功を収めたホンダ・ヴェゼル、同様の手法を用いてアドバンテージとしたものの、実直さが良くも悪くも残ってしまっているトヨタ・ヤリスクロス、さらには、実際はAセグどころか軽乗用車にも用いられているプラットフォームベースなのにBセグ以上の背伸びをしつつ、それを感じさせないバランスを作り上げているしたダイハツ・ロッキーなどにも見られますが、彼らに共通しているのはそのセグメントに求められるコスト(販売価格)と経済性をしっかりと作り込んでいるところ。そう考えると、ルノー・日産・三菱のアライアンスでは、CセグだけどDセグの性能まで作り込んでいる三菱・アウトランダーPHEVがありますからして、……、云々。コストがからんでくると、海外勢はどうしても何かが不足してしまいますな。ま、まじめゆえに隠し切れなかったとも表現できるんですが。
ちなみにですね、フルハイブリッドユニットである、E-TECH HYBRIDのパワーフィールについては好印象。ま、Bセグならではのパワー感という前提は付きますが。ただ、やはりですね、ドッグクラッチ採用によるダイレクト感は不足なく……、どころか、むしろ、感心したのは、先読み制御含めて、シフトにイヤミがないこと。いや、音、振動はありますよ、ありますけどね、ドッグクラッチゆえに許せるというか、むしろ存在を感じさせてくれる音として残されており(残ってしまったというのが正解だろうけど)、好印象。それにしても、いくら制御が入るからといっても、Bセグあたりのコストでドッグクラッチをこうまで使いこなせるとはね、と、感心を覚えたところでもありますな。
個人的には、新技術をオーナーに感じさせたいのか、愉しんでもらいたいのか、それとも、消し去りたいのか、といった、商品性に通ずる作り込み方に曖昧さを感じ、そこにルノーらしくないと感じたところがありました。ただ、一方で、今に受け入れられるためには、これでいいのでは? と思うところもありました。まぁ、これは日本だけなのか、グローバルなのかまでわかりませんが、国内では、クルマとしての走行性能に手を付けぬままにアッパーテイストやSUVテイストを付加しただけでヒットしてしまう現状がありますから、そう考えると、ハイブリッドシステムのみに絞って、R.S.ライン相当(ってか、そのものかも)の装備を施した日本仕様のアルカナの注目度は高いことでしょうし、自分が予想している以上に売れることでしょう。ちなみに、とあるディーラーではトヨタ車オーナーでこのアルカナの購入を前向きに考えられている方がいたとか。この、トヨタブランド内、もしくは、レクサスブランド内という枠からはみ出して、しかも(!)、ルノーディーラーを訪れてしまうって、相当なもんだと思いますからして。ま、それだけ、乗らずしても魅力を感じるモデルってことの証明だな、なんてことを感じました。
そうそう、なんだかんだ言いましたけど、ルノーが重視した環境性能(この場合は燃費)は、2時間少しのテストドライブで、高速ありき、ワインディングありき、撮影ありきで、20km/Lをわずかに下回った程度で、ちょっと驚きでした。ま、これもまたといいますか、これこそがイマドキに求められる性能。ま、何度もいいますが、こういったところに、自分の好みであるルノー像との乖離を感じさせ、それは言い換えると、それは自分が時代に取り残された感そのものだな、と、つくづく感じました。ただですね、その乖離を感じ取り、そして、こうして指摘できるならば、この仕事はまだまだ続けられるなぁ、との再確認もできたのでした。