#1611 予想どおりの快適性をもちながら、想像以上に軽商用車していた、ホンダ・N-VAN。

 さて、ホンダからデビューしたN-VANの話。軽商用車を使ったことがある人は、乗用車系プラットフォームで商用車に期待される性能はムリだろうという、強い強い、ほんとに強い、先入観をもっています。たぶん、皆といっていいほどに。キャブオーバースタイルがもたらすキャビンスペースはその最たるところですが、使い勝手やら耐久性やら含めて、敵うものはない、変えてはならない、もの、と捉えています。しかし、それゆえに、燃費やら快適性、そしてパワーを含めた走行性能については、諦めなければならないもの、と捉えていたりもします。ところがですね、ふと客観的になってみると、この考え方、実はクルマに寄り添うという軽自動車たるコンセプトと乖離(とは言いすぎですが)していることに気付きます。そう、クルマ側が近づこうとしているようで、していなかった。実用性が最優先されることはいいのですが、実際に使われるシーンとも乖離していたとでもいいましょうか。たとえばですね、最近見られるようになった、おしゃれというとあれですが、イマドキなモダンさを採り入れた移動商店的な、そんな使い方に対して、そぐわなかったとでも言いましょうかね。
 ということで、商用軽バンを再定義するといわんばかりに登場したのがこのホンダN-VANでした。ベースはN-BOXと共用していますが、実はN-BOXの軽量化も、このN-VANで重たくなることまで見越したものだったとか。といったことからも分かるとおり、商用軽バンに求められる性能をFFプラットフォームでしっかりと実現していまして、その練り込みようったらスゴイことだらけ。皆が諦めていた快適性やハンドリングなんかは、ベースポテンシャルから想像されるように意図も簡単にクリアしています。たとえば、商用軽バンでは荷物を積んだ際、つまり、サスペンションが沈み込んでいるシーンで発生する路面からの突き上げがあります。あるんですが、このN-VANでは、プログレッシブレートのコイルを採用することで、乗り心地を確保したままに、突き上げを確実にいなしておりまして、商用軽バンたる当たり前(ウィークポイント)が見当たらない。御法度とされてきたCVTを搭載したことで、エンジンのトルクを上手く活用して、燃費とパワー感をバランスしていまして、ワイドレシオとしたこともあって発進から加速まで、NAなのに不足なし(商用軽バンとして)。ターボも用意されていますが、むしろターボのトルク変動に違和感を覚えたほど。そうそう、高速における直進性がいいのなんのって、ハードウェアの違いゆえとはいえ、これが商用軽バン? と感じるほどのポテンシャルを持ち合わせています。
 ただ、フラットフロアを実現するためにシートは、サイズが犠牲になっていますし、アンバランスなヘッドレストも気になります。もう少しいいますと、シート生地が滑りまくりといった感があり、走りの良さからアップスピードになることもあって、意図も簡単に落ちてしまいます。ただ、まぁ、シートに関しては、優先順位が違うと考えると納得できますし、今後の改良で進化していくことでしょう。  と、かなり感激しているN-VANですが、さらに感激させてくれたのがMTの存在。S660のMTをもってきたと訊くと、そのシフトフィールやらを期待しますが、それだけじゃない。ちゃんとトルクバンドやら含めて整えられていまして、もう、愉しさ満開といった感じ。といっても、それはS660的な分かりやすいスポーティさではなく、パワー、制動、すべてコントロールできるといった、自在に操れる愉しさたるスポーティ。6速はかなりハイギアードになっているようですが、5速までのギア比ったら、N-VAN用に仕立てたの? と思えるほど。トルクバンドを求めながらの走りによって、商用であることをついつい忘れてしまうほど。もちろん、シフトフィールもバツグン。そこまでいいとは思わなかったので、試乗後はやられた感で打ちのめされてしまいました。
 このN-VANが軽商用バンのメインストリームなるかならぬかはわかりません。CVTだって、ボディだって、果たして、ユーザーが求める要求をどこまで満たしているのかは、これから分かってきます。ただ、いずれにしても、してやられたを、各ブランドが感じているだろうことは、たしかだろうな、そんなことを感じました。ちなみに、このN-VANを実用性だけではなく、趣味や日常にも使えることを強くアピールしていますが、実際にその層は少ない、と見ているようです。ただ、少ないとはいっても、少なくはないし、使い方にこだわりがある人たち、と捉えているとか。今後、ほほぅ、そうきましたか、といった提案も多く出てくるでしょうな。

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